2012年御翼11月号その4

「能力・経済・健康」の三つさえあれば

フルート奏者・紫園 香さん  「神にこそ栄光あれ」というテーマでデビュー30周年記念リサイタルを行ったフルート奏者の紫園 香さんは、かつては自分の栄光を求めて演奏していた。しかし、自分の力ではなく、究極的には神に生かされているということを知り、神の素晴らしさを表す演奏をするようになった。 
 紫園さんがそう思うようになった背後には、彼女がクリスチャンとなるきっかけにもなった、三つの大きな出来事が影響しているという。
 一つ目は、人を愛するという能力に、自分がとても欠けた人間であるということに気付かされたことであった。かつて、一生を共にしたいという人ができたが、自分が変わるのが嫌で、相手に変わって欲しかった。愛するということがどういうことなのか分からないまま、共に生きていくことができなくなったのだ。頼まれたのでもなく、自分で「この人を愛そう」と思った人すら愛せない自分に紫園さんは愕然として自信を失った。
 次に、父の会社の倒産があった。父は、梱包材のプチプチ(1957年に米国人技師が偶然発明したのが最初)を開発した人であったが、独立して始めた会社が連鎖倒産する。紫園さんは突然、生まれ育った家を出て行くこととなった。家、家族の温かい交わり、社会的信頼など、当然自分のものだと思っていたものが簡単に失われた。
 更に、フルート生命にかかわる病を経験する。腹部を20p切らなければならない手術をすることとなった。腹筋に20p傷が入ると、フルーティストにとっては生命が失われることである。しかし、腹筋に傷をつけないで手術をしてくれる医師と出会い、今でも演奏活動ができている。
 当時は、どうして自分にこんなことばかり起こるのだろうと嘆いた。愛する能力、経済(普通の生活が守られる経済的基盤)、健康は、紫園さんが努力目標にしていたものである。この三つ(能力、経済、健康)があれば、安泰な人生を歩めると信じていたのだ。しかし、突然、簡単に、取り去られ、自分を支えてくれる力にもならなかった。紫園さんは人生が全く分からなくなる。
 そんな紫園さんを救ったのは、芸大時代の恩師が紹介してくれたキリスト教会でのフルート教室だった。かつての指導教官から、キリスト品川教会でフルート教室の講師を探していると言われ、経済的にも助かるので、お引き受けした。生まれて初めて教会に足を踏み入れると、そこで見たものは、とても不思議なものだったという。紫園さんにとって日曜日は、コンサートをする「仕事の日」である。しかし、教会の人たちは日曜日に仕事を休み、朝早くから集って、礼拝を献げ、輝かしい顔をしている。何が皆をそうさせるのだろうと、紫園さんは思った。
 教会の人々から感じる、自分にはない喜びに心ひかれた紫園さんは、その後、聖書を学ぶ。そして、聖書の言葉を通して、自分の人生を導く神の存在に気付かされていった。ある日、詩編139編13節「あなたは、わたしの内臓を造り/母の胎内にわたしを組み立ててくださった」という御言葉と出会う。これにより、神のご計画の深さと大きさを感じ、自分がこの世に生まれさせていただき、育てていただけたことは、御手による計画だったのだと気付かされた。結局、生きてきた、生きていると思っていたが、今日も神に生かされている、という思いが迫ってきた。そして、どんなことがあっても大丈夫なのだという安心も持てるようになった。「主御自身があなたに先立って行き、主御自身があなたと共におられる。主はあなたを見放すことも、見捨てられることもない。恐れてはならない。おののいてはならない。」(申命記31:8)こう言ってくださる神様の御手にしがみついていれば大丈夫だ、というのが紫園さんの実感していることである。だから、自分の演奏を通して、その喜びと心の平安、生きる希望を感じてほしいと願っている。 

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